TICAD2025 第9回アフリカ開発会議テーマ別イベントに参加してきた話
笹山 桐子
(本文は2025年8月に寄稿されたものを転載しています)
2025年8月22日、横浜で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD)のシンポジウム「ポータブルヘルスクリニック(PHC)によるアフリカでの母子保健管理の飛躍 ― AIとデジタルクローンの活用」に勉強と情報収集目的で参加してきました。
会場では、セネガルでのJOCV時代にお世話になった調整員の方が司会を務めており、NCGM時代の同僚が運営スタッフとして関わっているなど、懐かしい再会もありました。
このプログラムでは、九州大学・長崎大学・大阪大学・NPO法人ロシナンテスが連携し、現場のニーズに技術を重ねていく姿がとても印象的でした。参加して強く感じたのは、「これからの支援はDX(デジタル化)が鍵になる」ということです。
以下、特に心に残った点をまとめます。

日本が今の医療体制を築くまでには150年以上の時間がかかりましたが、アフリカではDXの力で段階を飛び越えて新しい仕組みに一気にアクセスできる可能性があるそうです。インターネット環境が広がる今、AIやデジタルクローンを使った診断支援、データに基づく継続ケアなどが、比較的早く実現しやすく、医師不足や医療アクセスの課題も、デジタルの波で変えていけるかもしれません。
登壇者の「日本は規制や情報漏えいへの不安が強く、前に進みにくい。一方、アフリカでは新しい取り組みを進めやすい」という言葉は印象的でした。(もちろん、拙速になりすぎないよう、慎重さは大切と思うのですが・・・。)
今回のイベントで特に印象に残ったのが「PHC基本パッケージ」の存在です。これは、ひとつのカバンに健康測定機器やタブレットがギュッと詰め込まれたセットで、これさえ持っていけば村のどこででも健診ができます。ちなみに、1ケース500ドル。(モバイル超音波などオプション有)測定データはその場でスマホやタブレットからクラウドにアップロードされて、医師が遠隔から診断してくれるというしくみには本当に驚かされました。現場のヘルスワーカーは、特別な資格がなくても数日の研修で使えるようになるそうで、「これぞ現場に根差したDX!」と思いました。
現地で使われる医療機器には品質のばらつきがある、という発表がありました。たとえば、血糖・コレステロール・ヘモグロビンなどのセンサーは、国やメーカーによって測定結果が大きく異なることがあるとのこと。
コレステロール測定デバイスも、125ドルのものから31ドルのものまで価格差があり、「高ければ必ずしも信頼できるわけではない」という話は意外でした。導入前の検証、定期的な校正、現場での使い勝手の確認など、地に足のついた運用が欠かせないと実感しました。

スーダンで活動するNPO法人ロシナンテスの川原尚行医師の「どんなに良いプロジェクトでも、治安の安定が欠かせません」という言葉は胸に響きました。川原医師は外務省で医務官としてスーダンに赴任後、紛争で日本からの援助が止まった際も現地の人々を支えたい思いから単身で医療活動を続けてこられた方で、2006年から支援を続けているとのこと。
途上国では、政治の急な変化や治安の悪化でプロジェクトが中断することも少なくありません。だからこそ、技術だけでなく、持続的に活動できる「土台づくり」が何より重要だと強く感じました。
一番心に残ったのは、「アフリカはDX時代に生きている。過去のやり方をそのまま繰り返す必要はない」という考え方です。モバイル超音波や遠隔診療、AIによるリスク判定、紙の母子手帳とデジタルの連携など、新しいモデルはアフリカ発で、いつか日本の限界集落や離島の医療にも応用できるとのことです。
アフリカで生まれた実践が日本に“逆輸入”され、私たちの医療課題の解決につながる未来も十分にあり得ます。場所がどこであれ、医療へのアクセスや経済的な壁を越え、安心して暮らせる社会に近づいていく―そんな可能性を感じられた時間でした。